加齢に伴う難聴と耳鳴
ヒトが聞こえる音の高さの範囲は約20~20.000Hzの間であると言われており、通常、加齢に伴う難聴は高い周波数の音(キーンというような音)を感じる部分から始まります。テレビ番組等で、聴力の老化現象を検証するとして16000Hz前後のいわゆるモスキート音が聞こえるかどうかを調べているのを目にしたことがありますが、一般的な聴力検査は、より正確な測定ができる125~8000Hzの間の7つの周波数の音を用いて行います(純音聴力検査といいます)。純音聴力検査の所見では加齢による難聴は下図のように4000~8000Hzあたりから始まり、徐々に低い周波数へと進んでいくとともに、各周波数における難聴の程度も増していきます。体温計や電子機器のアラーム音などの多くは「ピー」という高い周波数の音が用いられていますので、その意味では、お年寄りに優しくない設定と言えるかもしれません。
一方、耳鳴は聞こえの神経(センサー)が傷ついた時に発生すると考えられており、50歳を過ぎると約20%の人が耳鳴りを感じるようになると言われています。また、普段耳鳴を感じていない人でも、全く音のしない静かな部屋に入ると約80%の人が耳鳴を感じるという報告もあります。つまり、加齢によって傷ついた聞こえの神経は、耳鳴の原因になってしまうのと同時に難聴を生じることによって、静かな部屋にいるのと近い環境を作ってしまうため、より耳鳴を感じやすくさせてしまうというわけです。
残念ながら多くの場合、傷ついてしまった神経を完全に治すことはできませんので、聞こえに不自由を感じるようになった場合には補聴器を試していただくことになります。補聴器は、それぞれの聴力に合わせて効率よく音を大きくするための様々な工夫がされた器械ですが、加齢に伴う難聴では音を言葉として理解する力も弱くなってしまうことが多いので、補聴器を使用しても言葉の聞き取りを100%改善することはできません。特に話す相手が早口だったり、滑舌が悪い場合には、補聴器を付けたとしても、これを完全に聞き取ることは難しいのが実情です。したがって、補聴器を付けている方とお話しするときには大きな声で話すよりも、はっきり口をあけて、ゆっくりと話をすることが大切です。
また、補聴器の付け始めは、静かな部屋から急に音のある世界へ出たのと同じ感じなので、周囲からの音がうるさく聞こえてつらいという方がいらっしゃいますが、脳は徐々にその状態に慣れるとともに、耳鳴も自然と気にならなくなっていくと言われていますので、しばらくは頑張って、なるべく長い時間、補聴器を付けるようにしましょう。
当院でも1か月に一度、待合が静かな休診日(木曜日)に補聴器の専門外来を行っておりますが、「認定補聴器技能者」が常駐している補聴器販売店であれば細かな調整について適切に応じてくれるはずです。いずれにしても聞こえに不自由を感じたり、耳鳴が気になる場合には、現在の聴力がどの程度であるのか、補聴器の効果が得られる可能性があるのか否かについて、一度耳鼻科でご相談していただくのが良いと思います。